デス・オーバチュア
第202話「最低最悪のグリムリーパー」



大空を埋め尽くした電光の爆発が収まると、ボロボロになったアンブレラが地上へと落下していく。
大地に激突したアンブレラの後を追って、ランチェスタも地上に降り立った。
「電光爆砕を喰らって形が残っているとは流石ね」
「……くっ……っ」
アンブレラは力を振り絞るようにして立ち上がると、ランチェスタと向き合う。
「せっかくの綺麗なドレスもボロボロね……まあ、わたしもひとのこと言えない格好だけど……」
ランチェスタもまた、テラ・グラビトロンの直撃と自らの成長(真の姿の解放)で、胸や秘所等を辛うじて隠す程度の布切れが体に張り付いてるだけの無惨な格好だった。
「さてと、D達が戻ってくる前に極めちゃおうかな?」
全身から常に爆発的に放射し続けている電光が右拳へと集束されていく。
「っ……ぅ……」
「雷撃(サンダーボルト)!」
ランチェスタは瞬時に間合いを詰めると、電光の右拳でアンブレラの左頬を殴り飛ばした。
「雷光(ライトニング)ゥゥッ……」
左掌の先に電光が集まり、巨大な電光の槍が即座に形成されていく。
「神槍(スピア)ァァッ!」
ランチェスタは電光の槍を、殴り飛ばされて吹き飛んでいくアンブレラへと投げつけた。
電光の槍はアンブレラの腹部に深々と突き刺さる。
次の瞬間、電光の槍は大爆発し、アンブレラの姿を呑み込んだ。
「フッ……」
ランチェスタの周りに次々に光り輝く球体……雷球が生まれていく。
百雷弾(ハンドレットサンダーブレット)……百の雷球は一つ一つが今までの十倍以上の大きさをしていた。
「殲滅しろ、百雷弾!」
雷球は一斉に解き放たれ、電光の爆発の中に飛び込むと、新たな爆発を連鎖的に巻き起こしていく。
「トドメ!」
ランチェスタは拳を握り締めた右手を突き出すと、右手首を掴むようにして左手を添えた。
彼女の全身から放出される電光が凄まじい勢いで倍増していき、右拳へと集束していく。
「電光神罰砲(ライトニングパニッシャー)!!!」
突きだした右拳から膨大な電光が解き放たれた。
今まで嘆きの十字架から撃ちだされていた電光と同じようなものである。
ただし、その巨大さ、激しさ、速度は今までの比ではなかった。
電光神罰砲による超爆発が、雷球達による爆発を纏めて吹き飛ばす。
ランチェスタは、電光発射時の反動で少し後退しながらも、体勢は崩さなかった。
「ふう、以前の子供の体だったら反動で吹き飛んでたわね」
嘆息すると、右手首から左手を離し、射撃体勢を解除する。
『ふぅぅん、まるで右手に銃を仕込んだみたいな技ね〜』
「うっ!?」
突然の背後からの声に、ランチェスタは素早く振り返った。
だが、そこには誰もいない。
声が聞こえる前も、聞こえた瞬間も、そして、聞こえた後もその場には何の気配も発生していなかった。
「……何、今の? 空耳……?」
ランチェスタは寒気を感じ、己の体を抱き締める。
体中を舐め回されるような嫌らしい声だった。
「……ん、つう!?」
気配を感じた瞬間、ランチェスタは莫大な光輝を背中に受けて吹き飛ばされる。
「……相手の生死を確かめる前に気を緩めるのは愚か者よ……」
爆発が晴れた場所から、アンブレラがゆっくりとランチェスタの方に歩いてきた。
「……しぶとい……痛たたっ……」
ランチェスタは光輝の直撃を受けた背中を痛がりながらも、近寄ってくるアンブレラに向き直り睨みつける。
「……接近戦は得意じゃないの……こう見えても私は遠距型の術師型なのよ……超近距離型の格闘型さん……」
一足一刀の間合いにまで近づくと、アンブレラは立ち止まり、ニルヴァーナを大地に突き立てた。
「まして、パワーが互角……いえ、私はゼノンとの戦いでかなり消耗しているから、倍以上か……こんな状況であなたと肉弾戦なんて冗談じゃないわね……」
アンブレラは深く嘆息する。
「あら、そう? でも、わたしは肉弾戦しか能が無くてね……悪いけど、肉弾戦を続けさせてもらうわ!」
言い終わると同時に、ランチェスタは雷を集束させた右拳……雷撃をアンブレラの顔面に叩き込んだ。
アンブレラは再び、後方に吹き飛んでいく。
「完全復活した以上、ただの雷撃も、今までの十倍……百倍? 集束雷撃(クラスターサンダーボルト)並みの威力があるわ。例え、あなたがフィンスタアニスみたいに物理的に接触不能な『闇』になろうと、我が雷光は闇の根元を打ち砕く!」
ランチェスタは雷光が集束され続ける右拳を強く握り締め、力強く宣言した。
爆発的な閃光と轟音を放ち、ランチェスタは一瞬で、吹き飛んでいくアンブレラに追いつく。
「そらぁっ!」
アンブレラの顔面に雷撃を叩き込み、大地へと叩きつけた。
「そらそらそらそらそらそらそらそらそらそそらっ!」
ランチェスタは両手の拳に雷光を集束させると、アンブレラの全身に両拳を嵐のように連続で叩き込み続ける。
「そおおお……おらぁぁっ!」
トドメとばかりに、両手を握り合わせるとアンブレラの顔面に叩き込んだ。
「…………」
アンブレラは意識があるのかないのか、ぐったりとしている。
「とぅっ!」
ランチェスタは、アンブレラの腹部を両足で思いっきり踏みつけ、空高く跳躍した。
「今度こそ消えてなくなれ!」
地上のアンブレラに向けて右手を向け、ランチェスタは再び電光神罰砲の発射体勢をとる。
「電光神罰砲!!!」
右拳から先程よりさらに膨大な電光が解き放たれ、アンブレラに直撃し凄まじい大爆発を起こした。



「……はあはあ……今度こそ……消し飛んだわよね?」
ランチェスタは肩で息を切らしながら、眼下の地上を見下ろす。
完全復活してから、この短時間の戦闘で全エナジーの半分近くを消費していた。
「…………」
不意にランチェスタは違和感を覚える。
やけに疲れるというか、消耗が早すぎる気がした。
『うふふふっ、お疲れぇ〜?』
「ううっ!?」
再び背後から、嫌らしい女の声が聞こえ、ランチェスタは慌てて振り返る。
しかし、前と同じくそこには誰も居なかった。
「えっ……ぶううっ!?」
背中に気配を感じ振り返ると、巨大な重力球が目の前に迫っており、ランチェスタに直撃すると大爆発する。
「……フフフッ、二度同じ隙を見せるなんて素敵な馬鹿ね……」
「痛ぅ……悪かったわね、間抜けで……」
アンブレラはゆっくりと浮かび上がると、ランチェスタと向き合った。
「……て、あなた……なんか元気になってない……?」
クラッシクロリータなドレスはとことんボロボロになっているが、なぜか、アンブレラの顔色は良くなったように見える。
「ええ、御陰様で……肌に艶が戻ったわ」
「艶って……?」
「ディーペスト・フェザー!!!」
「くっ!?」
アンブレラの背中に紫黒の光翼が生えたかと思うと、無数の紫黒の光羽がランチェスタに向けて撃ちだされた。
「つあああっ!」
ランチェスタは爆発的に電光を放出し、紫黒の光羽の弾雨を弾き飛ばす。
そして、反撃に移ろうと、光羽の撃ちだされた方を睨むが、アンブレラの姿はすでにそこにはなかった。
代わりに頭上に巨大な気配を察知する。
視線を向けると、巨大な闇の『手』が迫っており、ランチェスタを呑み込むように捕らえて地上に激突した。
「ぐふっ!」
地上に叩きつけられたランチェスタの前にアンブレラが出現する。
「フッ……」
アンブレラの紫黒に輝く右手はランチェスタの顔面を鷲掴みにすると、彼女の後頭部を大地に叩きつけた。
「完全掌握……先程のお返しに乱打してあげようかしら?」
「うぐっ……」
「ディーペスト・クロー!」
「がはああっ!?」
左手のディーペスト・クローがランチェスタの腹部を掴み、派手に剔り取る。
「フフフッ、私はあなたと違って、相手を嬲る趣味も無ければ、自分の力を誇る気もないわ……」
そう言いながら、ランチェスタの紫黒に輝く右手が捕らえたアンブレラの顔面をじわりじわりと締め上げ出した。
「つっ……どこが嬲る趣味が……無いのよ……この……サディスト……!」
頭部を握り潰されていく苦痛に耐えながら、ランチェスタはアンブレラを貶す。
「フッ……私がサディストだったら……この程度ではすまないわよ!」
「ああああぁぁっ!?」
アンブレラは左手に日傘を出現させると、ランチェスタのへそに突き刺した。
「…………ブラストォォッ!」
さらに、突き刺した傘から零距離どころか、相手の内部で紫黒の光輝を放つ。
あまりの衝撃と激痛にランチェスタが声にならない悲鳴を上げた。
「フフフッ……次はへそではなく、上の口と下の口に突っ込んでから撃ってあ……おっと、少し下品だったかしら?」
「……くうっ、この変態っ!」
ランチェスタは、押し倒され顔面を掴まれた不利な体勢のまま、アンブレラを殴ろうと右拳を放つ。
「フン」
アンブレラはその右手を日傘で貫いて、そのまま大地に張り付けにした。
「フッ……」
左手に三枚の紫黒の光羽を出現させると、軽く息を吹きかけ、空へと舞い上がらせる。
舞い上がった光羽は日傘に変じると、ランチェスタの左手、右膝、左膝を貫いて大地に張り付けにした。
「そうそう、トドメを刺す前に教えてあげるわ。なぜ、貴方と私の立場が逆転したのか……それは貴方が……私に極上の光を御馳走してくれたからよ」
「極上!?」
「電光……少し個性的で濃すぎる味だったけど……美味しかったわ、御馳走様、フフフッ」
アンブレラは左手を引き絞ると紫黒に輝かせる。
「私はセレナとは違う……これ以上嬲らずに一撃で終わらせてあげる……ディーペ……」
「舞い散れ、ダークスフィア!」
突然、無数の闇の球体が飛来し、地上に着弾して発生した大爆発が全てを呑み込んだ。



「やっと戻ってきたの、フィンスタアニス?」
着弾の直前に跳躍して逃れていたのか、爆風に乗るようにして、日傘を差したアンブレラが空に浮いている。
「エクレールへの陵辱はそこまでにしてもらいますわ、お姉……いいえ、アンブラ!」
Dは、アンブレラの前まで空を歩くようにして近づくと、白銀の剣を突きつけた。
「エクレール? ああ、あの子へのトドメは貴方が刺したような気したけど……?」
ランチェスタの姿は今だ完全に晴れぬ爆煙の中に消えている。
「心配無用です、あの程度の爆発で滅する程、わたくしの友は脆弱ではありません」
Dは、くだらないことをといった感じで一笑した。
「……本当に友達なの、貴方達?」
「先程は不覚を取りましたが……今度こそ、わたくしは貴方を倒す!」
白銀の剣から莫大な光輝が噴き出し、巨大な光刃を形成する。
「消えよ、忌まわしき過去の象徴!」
Dは迷わず白銀の剣の光刃(断魔姫剣)を姉に振り下ろした。
「フッ……」
アンブレラは、紫黒の輝きを放つ左手で、あっさりと断魔姫剣を受け止める。
「貴方はあの頃と何も変わっていない……」
「なっ……?」
「ただの泣き虫よ!」
「ぐぅっ!?」
紫黒に輝く右手……ディーペスト・フィンガーがDの胸に叩き込まれた。
Dは凄まじいスピードで背後に吹き飛んでいく。
そのままなら、Dは再び地平の彼方へと消えていくはずだった。
だが、Dを突き飛ばした張本人であるアンブレラが、彼女に先回りする。
「未熟者!」
先回りしたアンブレラは、Dの脳天に肘鉄を叩き込み、地上へと叩き落とした。
「未熟! 脆弱! 弱過ぎる! それでも、私の妹……闇を継承する正当なる姫君か!?」
アンブレラは苛立ちを隠そうともせずに怒鳴ると、左手を天へとかざす。
すると、地上から独りでにニルヴァーナが飛んできて、彼女の左手に握られた。
「貴方の友達の御陰でエナジーは充分すぎるほど補給できたわ……」
ニルヴァーナの両先端から爆流の如き光輝が噴き出し、巨大な光刃を成す。
「このエナジー、貴方を完全に消し去るために使わせてもらう!」
アンブレラが注ぎ込んだ闇のエナジーを喰らい、光刃の出力と輝きが爆発的に増加した。
「……つうっ!」
Dが地上から飛翔し、アンブレラへと再び断魔姫剣で斬りかかる。
「断っ!」
「滅せよ、愚妹!」
ニルヴァーナの光刃は、交錯した断魔姫剣を打ち砕き、Dの胴体を横一文字に斬り捨てた。



「つっ……くぅ……フィンスタアニス……?」
ダークスフィアの大爆発になんとか耐えきったランチェスタの目に、断魔姫剣を光刃だけでなく実刃まで打ち砕かれて、その破片と共に地上へと落下していくDの姿が映る。
「うふふふふっ、強すぎ、格が違いすぎ……ここまで差があるとつまぁんない〜」
「がっ……?」
三度目の嫌らしい女の声……だが、今回はランチェスタは背後を確認することもできなかった。
背後を振り返るよりも早く、左胸を背後から鋭利な赤い刃で貫かれたからである。
「だ……誰……?」
「アンブレラに御馳走し過ぎぃ〜、それでも、まだ四億ぐらいは残っているかしら……遠慮なく全部貰うわね〜♪」
「ふざ……が、があああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!?」
目に見える程の勢いで、ランチェスタの体から光……エナジーが赤い刃に急速に吸われていった。
「……っ……ぅ……フィ……」
数秒後、体の外からも内からも一切の光(エナジー)を失い、ランチェスタが『停止』する。
「命だけは助けてあげるぅ〜、と言っても、ここまで吸ってしまったら死んじゃうかもね〜? うふふふふふふふっ!」
赤い刃が引き抜かれると、ランチェスタは前のめりに大地に倒れ込んだ。
倒れたランチェスタは、いつの間にか、十六歳ぐらいの年齢から、八歳ぐらいの幼い姿に変わっている。
「うふふふっ、まあ、一桁、二桁、ただの人間程度のエナジーは吸い残しているだろうから……運が良ければ、生きていくだけはできるんじゃない? 人間以下の虫けらとしてだけどね……あはははははははははっ!」
ランチェスタの変わりにその場に立っていたのは、妖しげな赤い光刃の大鎌を持ったセレナ・セレナーデだった。
「…………」
その背後にさらに立つ者が居る。
「なぁに〜? 私のやり方に文句でもあるの〜? 吸血王様ぁ〜?」
セレナは、振り返るまでもなく、その存在に気づき、正体も解っていた。
「いや、別に君の最低最悪な漁夫の利行為にケチをつける気はないよ」
「うふふふふっ、最低最悪ぅ〜? 誉めてくれてありがとう、きゃはははははははっ!」
一欠片も恥じることも、罪悪感を感じることもなく、セレナはとても愉快げに笑う。
「じゃあね、吸血王様〜、また遊びましょうぉ〜!」
セレナは別れの言葉と共に跳躍し、大鎌を背後に振るった。
大鎌から、赤い刃が外れ、ナイトに襲いかかる。
「フッ……ああ、いずれまた会おう」
ナイトが裏拳で赤い刃を粉砕した時には、すでにセレナの姿は完全に消え去っていた。






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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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DEATH・OVERTURE〜死神序曲〜